CRAFTSMANSHIP

ミキハウスのものづくり

2-1

第2回テーマ

赤ちゃんを包む
やわらかな
ガーゼバスタオル

一枚のかわいらしいタオル。赤ちゃんのために作られたものだ。
わたしたち大人が使うバスタオルとは違い、あまり見かけない正方形で生地も薄い。
本当にバスタオルなのか?そうこれは「ガーゼバスタオル」という商品なのだ。

片面がガーゼ、片面がパイル地でできたこの「ガーゼバスタオル」。
今や年間6万枚を販売するミキハウスのベビーアイテムの人気商品となっている。
赤ちゃんのためのこのガーセバスタオル、実はミキハウス社員にもファンが多い商品だ。
薄いことで、扱いやすく、乾きやすい。

2004年以来、ミキハウスとともにこの「ガーゼバスタオル」を
作り続けてきた田中産業株式会社の田中良史社長は言う。

「実は、ミキハウスさんから、『ガーゼのおくるみを作れないか?』と話があったのが最初でした。」田中は「そら無理やわって思いました。」と笑う。

タオルメーカーの田中産業に、なぜ「ガーゼのおくるみ」だったのか。誕生ものがたりをひも解いていこう。赤ちゃん用のおくるみとしても使え、今や大人気のやわらかなガーゼバスタオルには、決してやわらかくない、ものづくりの秘密があったのだ。それは、ガーゼバスタオル誕生の2年前にさかのぼる。

ミキハウスの商品の中でも今や一二を争うロングセラー、「ベビーバスローブ」「ベビーバスポンチョ」のものがたりから紹介したい。 瀬戸内海を望む愛媛県の今治は約6割のシェアを誇る日本一のタオル産地。今治タオルといえば、知らない人はいないほど、世界中から愛される高級タオルブランドだ。 この地で90年にわたりタオルづくりを続けている田中産業は、地域を代表するタオルメーカーである。

子供服ブランドのミキハウスが、どんなきっかけで、タオルメーカーの田中産業と仕事をすることになったのか。 「1997年くらいだったと思います。ミキハウスさんが、出産内祝いなど、ギフト用のタオルを作りたいから、新しいタオル製造依頼先を探していると、倉敷紡績さんからご紹介いただいたのがきっかけでした。当時20代だった私は、ミキハウスと聞いて、すぐ大阪まで飛んでいったんです。」

ミキハウス、その名前に子どもの頃の懐かしい思い出がよみがえったという。「8歳違いの弟がいるのですが、小さい頃よく今治にあった子供服専門店で、ミキハウスの服を買ってもらって着ていたなあ、かわいかったなあと。」

そうしてフットワーク軽く何度もミキハウスを訪問しタオルを受注でき、ミキハウスとの取引が続いていった。
もちろん受注していたのは、「タオル」である。 取引が順調に続いていたある日、ミキハウス生産管理部門の平野からこんな相談を受ける。

「いわゆるタオルではなく、タオルという固定概念にとらわれない新しい商品を作りたい」
ミキハウスはタオルのプロではないから、ぜひ田中産業さんのノウハウとものづくりのエッセンスを取り入れて考えてもらえないかと話したという。

タオルはそもそも形状や寸法など規格が決まっている「織物」であって、ミキハウスが扱う洋服など、裁断や縫製といった工程を伴う「縫製品」とは製法が異なる。 タオル生地を設計し織り上げて、タオルを生産することはできるが、そのタオル地を使って赤ちゃんが着るものを作った経験はほとんどないのだ。

しかし田中は、これは面白いことになると思ったという。
今まで本格的には取り組んだことがなかった「縫製品」にチャレンジすることで、今治という地域にとっても新しい可能性とチャンスが生まれるのだから。

「タオルは吸水性を第一に考えていますから、縫製品の生地に比べて目が粗いのが一般的です。赤ちゃん用の洋服にそのまま使うことは難しい。肌触りとふんわり感、縫製品にふさわしいタオル生地を設計するところから始めなければならなかったので、その点は苦労しました。何度もミキハウスさんに足を運び、サンプルを確認してもらいました。OKいただけるまで大変でしたよ」

技術的な課題をクリアする縫製工場を探し、何度も試作をくり返しながら、ようやく2003年に「ベビーバスローブ」「ベビーバスポンチョ」が製品化されたのだ。
これらは、ミキハウスの出産祝い向け商品として大ヒットとなり、その人気は現在も続く。
かわいいデザインと抜群の使い心地。生まれたばかりの赤ちゃんのお世話をする新米ママ、パパにとっての神アイテムのひとつと言われている。沐浴やお風呂からあがったら、そのままくるんであげれば、湯冷めをせずに済むから便利だ。

この商品の誕生は、地域の様子も変化させたという。

「それまで定型的なタオルの生産がほとんどだったが、この商品のおかげで、地域の仕事は年中縫製品で埋まっていました。これは本当に新しい変化でした」
人気アイテムに成長した「バスポンチョ」だったが、ミキハウスからさらに高いハードルが提示された。

ガーゼのおくるみを作ってほしい。

「うちはタオルメーカーです。そこにガーゼのおくるみってどういうことか?と最初はとまどいました。話を聞けば聞くほど、無理やわって思ったんです」

ミキハウスからのオーダーはこうだ。

「タオルづくりのプロフェッショナルである田中さんならではの、ノウハウとエッセンスを取り入れてものづくりができないだろうか。無地ではなく、多色プリントで、パイルのやわらかさと吸水性、ガーゼの速乾性の両方を合わせ持ったかわいいおくるみを作ってほしい。」

赤ちゃんのためのおくるみ。
しかもガーゼで、ふかふかやわらかいもの。
自分たちの強みを生かして何ができるか。

「そこで片面をタオル地、もう片面をガーゼという両面構造で作ることにしました。タオルとしては細番手の糸を使うのですが、細くて切れやすいので最初に糸を晒して糊づけをして補強するわけです。この細い糸を、タオル用の高速織機で織り上げていきますが、とにかく生地の密度をどれくらいにするか、設計と調整に時間がかかりました。」

環境と身体への影響を配慮し、田中産業では小麦粉を糊剤として使用している。こういった細かな気配りも、よりよいものづくりを目指す田中のこだわりだ。

タオル地の基布ともなるガーゼ地は、速乾性を確保するために織り目の密度を粗くするとタオル地側のパイルが抜けやすくなってしまう。だからといって密度を高くしすぎると、今度は生地全体が固くなる。ポイントとなったのは経(たて)糸の密度設定だ。 何度も何度も試作を繰り返すことができたのは、一緒に取り組んでくれた工場長が、新しい商品を作ることをとても前向きにとらえ、苦労を楽しみながらチャレンジしてくれたからだ。

サンプルができあがるとミキハウスに持っていき、実際にその肌触りややわらかさ、感触を確かめてもらう。 「繰り返し繰り返し、とにかく微妙な調整が必要だったので、今までになく大変な作業でしたが、ミキハウスからOKをもらったときはほっとしました」

そうして、「ガーゼのおくるみ」は誕生し、その使い心地から赤ちゃんのお風呂あがりに最適な「ガーゼバスタオル」として販売がスタートしたのだ。

ミキハウスとともにタオル、バスポンチョ、そしてガーゼバスタオルづくりに取り組んできた田中産業だが、ミキハウスとの取り組みをこのように振り返る。

「タオルメーカーがブランド企業から受注するOEM生産の場合、絵柄やロゴデザインを提供され、求められるのは見栄えや高級感であることが一般的です。 けれどミキハウスさんから注文をいただくものは、使い心地の良さ、耐久性、速乾性などクオリティにこだわった商品です。
それに加え、洗濯後や乾燥後にとどうなるかまで、品質管理を求められます。それらを高い課題と感じます。
けれども、すべてにおいてベストを尽くし、どの課題もクリアできる風合いを実現したいと思い、取り組んできました。」

田中は4代目として祖父の代から90年あまり続くタオルメーカーを経営している。
その経営者の視点から、ミキハウスをどのように見ているのだろうか。

「ミキハウスさんからはいつも大きな刺激を受けています。新しい気づきをもらい、仕入れ先である我々のような会社のことも大切にしてくれる。
ご縁がありミキハウス社員だった妻と結婚したのですが、その妻が社員だった時の働きぶりや話から、社員を大切にする会社で、しかも、就職活動に来た学生さんのこともとても大切にする企業だという話をよく聞きました。十数年前、妻との結婚を決め社長と企画室長にご挨拶に伺ったときも、社員をわが子のように思っておられることが伝わってきたのを覚えています。」

ミキハウスが大切にしている「三方良し」の考え方。 会社、仕入れ先、お客さま、そして、未来のお客さま。「四方良し」かもしれない。

製造業というのは、発展途上の時代に栄える。不足しているものを作り出し行きわたらせるために、ものづくりが不可欠だからだ。一方市場が成熟しつつある先進国では、繊維業界やタオル業界というのは発展しづらい。 だからこそ、新しいものづくりの仕組みが必要となってくるのだ。

「当社には毎年高校を卒業した子たちが入社します。18歳の子たちが定年を迎えるまでに50年あるわけです。会社を経営する者として、次の50年間会社を続ける責任があります。」

田中は続ける。「ミキハウスさんを知り、こんな会社が作れるんだ!と思いました。儲かったという会社は世の中にはたくさんあります。もちろん儲かることは大切ですが、ミキハウスさんとのご縁で学んだように、存在価値のある会社であり続けたいと考えています。」

無理と思うところから、スタートした「ガーゼバスタオル」づくり。 小さな一枚には、技術力だけではない、多くの人の想いが、その糸一本一本にまで込められている。そしてミキハウスというブランドだけでは完成しないものづくりが、ここにあるのだ。

お風呂あがり、このバスタオルにくるまれ、やさしくケアしてもらう赤ちゃんの肌には、そこに織り込まれた多くの温かい気持ちが、やさしい記憶となって残っていくことだろう。